白石拓海は異世界でモテたいD  全裸のミミは、性的な描写を控えて表現すると、彫刻の様に美しかった。窓から差し込む月光に照らされ、神秘的な美しさがあった。 「あたしの裸を見て、どう思う?」とミミは少し恥ずかしそうに言った。 「最高です!」反射的にそう答える。  なんで俺はこういう時にもっと気が利いた事を言えないのか。 「えっと、その、興奮する?」 「ハイ!」俺のは、そりゃあもう、すんごい事になってた。 「分かった」そう言ってミミは床に落ちたバスローブを拾って……そのまま着た。  分からない。俺にはそれが分からない。  なんで着ちゃうの? 意味わかんない。  ミミが何を理解したのかも分からない。  白石拓海は異世界の女が分からない。 「ちょっと待ってて」そう言ってミミは寝室を出て、一階に下りて行った。  一人、寝室に取り残される俺……  もう、何が何やら……  しばらくすると、ミミが俺の服を持って戻って来た。 「もう乾いたから、これ着なよ」そう言ったミミはパジャマ姿にカーディガンを羽織っていた。  ナンデヤネーン! と心の中で叫びながら、ベッドの上にダイヴする。 「何やってんの?」とミミが呆れたように言った。  戻って来たミミは完全に素の状態だった。少し前に、俺の目の前で全裸になったのに。  分からない事が多すぎて、俺は枕に顔を埋めたまま考える事を止めた。  枕は良い臭いがした。 「まぁ、寒くないならいいけどさ」とミミはそう言って俺の服をベッドの上に置いた。  確かに、ちょっと冷えて来た。 「とりあえず、タクミの言ってた事信じるよ。まだちょっと信じられないけど」 「何が信じられないの」と訊く。 「何で日本語が話せるのかとか、常識がない理由とか」  そっくりそのまま同じ質問を返してやりたかった。 「あとさ、なんで呪いが効かないの?」とミミがベッドに腰を掛けて訊いて来た。  『呪い』という言葉に一瞬驚いたが、神様がそんな事を言っていたのを思い出した。 「体質」と答える。 「ふ〜ん。色々質問していい?」 「どうぞ」と素っ気無く応えた。 「タクミは日本に知り合いとかいるの?」 「いない」と答える。  どっちの日本にもいねぇよチキショウ。 「お金は?」 「無い」と答える。 「宿とか食事とかどうすんの?」 「わからん」と答える。 「うちの酒場で住み込みで働く?」とミミが提案して来た。 「働きたくない」と即答する。  住み込みで、の部分だけはとても魅力的だった。 「何かアテがあるの?」とミミが言う。 「無い」と答える。 「じゃあ、うちで働けばいいじゃん。遠慮しなくていいよ」 「俺は働かない」  そう、俺は働かざる者。白石拓海だ。 「働いた方がいいと思うよ。酒場が嫌ならどこか紹介しようか?」とミミがお節介を焼いて来る。 「働いたら死ぬ呪いにかかってる」と言ってやる。  俺は働けと言われるのがこの世で一番嫌いだ。 「へ〜、魔女にかけられたの?」 「俺自身に架せられた呪い」と格好付けて言ってみた。 「ふ〜ん。大変だね」  なんか普通に同情された。嫌味とかじゃなく。 「とりあえず、今日は泊まって行きなよ。そのベッド使っていいからさ」  ハイハイ。俺はもう何も期待しませんよ。  使っても良いと言うので遠慮なく、掛け布団の中にもぞもぞと入った。 「もう寝る?」とミミが訊いて来る。 「寝る」と答えた。 「じゃあ、あたしも寝るかな。おやすみ」 「おやすみ」そう言って、俺はミミに背を向けて目を閉じた。  今後の事は明日考えよう。今日はもう疲れた。  明日は勇気を出してナンパでもしてみるか……そんで飯を奢って貰う事を目標にしよう。  そんな事を考えていると、ミミが布団の中に入って来た。 「もうちょっとそっち詰めて」とミミは言った。 「マジ、わっかんねぇ」 「何が?」とミミに訊かれた。  やべ、声に出てた。まぁいいか。とりあえず疑問をぶつけてみよう。 「ミミは、その、俺の事が好きなわけ?」 「別に?」とミミは素っ気無く答えた。  多少ショックだったが、まぁ、今日会ったばかりの女に振られてもノーダメージですわ。と自分に暗示を掛けた。 「じゃあ、なんでこういう事するんだよ?」と平静を装って尋ねる。 「こういう事って?」とミミが惚(とぼ)ける。 「布団の中、入って来てるじゃん」 「だって、あたしの布団だし」 「いや、そうだけど、そうじゃなくて、俺の事好きじゃないのに、なんで布団の中に入って来るんだ? って言ってるの」 「う〜ん?……寒いから?」とミミは少し考えてからそう言った。 「じゃあ俺に裸見せたのはなんで?」 「女の裸で興奮するか確認するため」 「そのためだけに好きでもない男の前で全裸になったのか?」 「そうだけど?」  そうだけどォ? 男の前で平気で肌を晒すような女性だとは思わなかったよ…… 「ビッチなの?」と単刀直入に訊いてみた。 「ビッチって何?」という質問が返って来た。 「恥じらいとか無いのかって事」 「恥ずかしかったよ?」 「恥ずかしいのに見せてくれたんだ?」 「うん、まぁ……」とミミは少し照れくさそうに言った。  それを見て改めて可愛いなと思い、こっちまで照れてしまった。 「けど、俺の事は好きじゃないんでしょ?」 「好きなわけないじゃん」と言われる。 「ナンデヤネン」と突っ込みを入れる。 「あー、そっか」  ミミは何かに気付いたようだった。  勝手に一人で納得しないでくれません?  とりあえず、何を納得したのかわからないので、「何が?」と尋ねる。 「ちょっと、起きてお話しようか」とミミは言った。  仕方ないので状態を起こし、胡坐を掻いて話を聞く。 「タクミは嫉妬の魔女の呪いって知ってる?」 「知らない」と答える。 「やっぱり」とミミは再び納得する。 「一人で納得しないで、俺にわかるように解説してくれない?」と頼む 「ごめんごめん。えっと、どこから説明すればいいかな」とミミは頭を掻きながら悩む。 「とりあえず、その魔女の呪いって何なの?」 「じゃあそこから話そうか。簡単に言うと、異性に恋愛感情を抱かなくなる。そんな呪い」  それを聞いて、俺もなんとなく理解した。    見知らぬ男を簡単に家に上げた理由。  無防備に素肌を晒した理由。  平気で俺が入ってるベッドに潜り込んで来た理由。 「この街の人はみんな呪われてるの?」と訊いてみる。 「オミニの種族は全員呪われてる。例外はタクミだけじゃない?」 「オミニってなんぞ?」と質問する。 「ん〜、顔がヒューマンっぽい人の事。ヒト科とも言う。」  あー、獣耳系とか、エルフとかドワーフとかの事か。 「顔が動物の人はなんていうの?」と質問する。 「ケモノカオゾクって書いてアニマだけど、差別用語だから使っちゃ駄目だよ?」 「ふーん。ミミは何族なの?」 「猫、もしくはキャットだけど、同じ猫でも『自分はペルシアンだ。一緒にするな』みたいな事を言う人もいるから、これもあんまり使わない方がいいかもね」  同じ人間でも白人至上主義の人がいるみたいな、そんな感じかな? 「アニマはなんで呪われてないの?」 「さぁ?」  そこは『さぁ?』なのか。  他に何か聞きたい事はないかと考えていると、ミミが先に口を開いた。 「それで、話は戻るんだけど、あたしはノーマルだからさ、平気で男と風呂にも入るし、同じ布団に入っちゃうわけよ。これでタクミも理解出来た?」 「マジで?!」と仰天する。 「そんなに驚かれても……」とミミも驚いた顔をした。 「男と風呂入るの?!」と聞き直す。 「うん」 「誰とでも?」 「うん。銭湯とか普通は混浴だし」 「マジで?!」と再び仰天する。  これは僥倖。明日絶対に行こう。 「見られても平気なの?」 「うん」 「俺の前で脱いだ時は恥ずかしがってなかった?」 「そりゃ、お風呂は大丈夫だけど、部屋で全裸になるのなんかハズいじゃん」  ああ、そういう理由で…… 「さわ、触られたりしても?」と少し緊張しながら聞いてみる。 「まぁ、別に、普通に触るくらいなら……触りたいの?」とミミが言う。  お、おっぱ……ゴクリと生唾を飲む。  ミミの豊満な胸に目が釘付けになり、心臓の鼓動が速くなる。  この先の展開を考えると俺は鼻血が出そうになった。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  白石拓海は異世界でモテたいE 「さ……触ってもいいの?」とミミに確認を取る。 「どうぞ?」とミミは平然とそう言った。 「じゃ……じゃあ、失礼します」  そう言って、俺は人差し指でミミの胸を突いた。 「も……揉んでもいい?」と訊いてみる。 「別にいいけど、痛くしないでよ?」  ウッヒョ〜〜〜〜〜〜イ!!!  両手でミミの胸を揉みしだく。  柔らけぇ。後、思ってたより重い。すげぇ。 「な、生で触ってもいい?」と要求がエスカレートしていく。 「なんか、必死だね……どうぞ?」とミミはパジャマのボタンを外して胸を張った。 「触ります!」  申告してから恐る恐る胸元に右手を滑り込ませる。 「も、揉みます!」と報告してから指先に力を入れる。  指が沈む。と思った瞬間、ミミの体がビクンッと跳ねて、俺の手から離れた。 「え?」  右手を伸ばしたまま、呆気に取られる。 「や、ちょっとタンマ……」とミミは胸元を両腕で隠した。 「いや、まだ揉んでないですけど……?」と右手をニギニギする。 「やっぱナシ」とミミは後ろを向いて言った。  なんでやねええええええええええん!  なんでやねん!  ここでお預けとかおかしいやろ!  心の中で突っ込みを入れる。  ミミの様子がおかしい事に気付く。  頭の上の猫耳がへたって、尻尾にも元気がない。  何か悪い事をしてしまった気になって確認する。 「平気だったんじゃなかったの?」 「うん……」とミミは呟いた。 「あの、なんか敏感な所触って感じちゃった?」 「ち、違う!」とミミは大きな声で否定した。  違わなくない? だって、服の上から揉んだ時と反応違い過ぎでしょ。それも触っただけでまだ揉んでないんですけど? 「じゃあ、どうしちゃったのよ?」とちょっと心配になって訊く。 「わかんない。なんか、息苦しいかも」 「心臓は?」と尋ねる。 「速くなってる」 「俺の前で全裸になった事思い出してみて?」 「ッッッ……!」  猫耳と尻尾がピンッと立って、ミミの体が強張った。  はは〜ん? 「ちょっと、こっち向いてみて」と言ってみる。  ミミはもじもじしながら顔だけをこちらに向けた。  気の毒になるほど真っ赤な顔をしていた。 「な……なんか、あたしに何かした?」とミミが伏し目がちに言った。 「いや、ちょっと触っただけだけど……」 「なんか、なんか変……」とミミはまた向こうを向いてしまった。  分かりましたよ? これは流石に勘違いじゃないでしょう。 「俺の事、好きになっちゃったんじゃない?」  この反応は絶対そうでしょ。 「そ、そんなわけないじゃん……」とミミは力無く言った。 「いやいや、その反応は完全に俺の事好きじゃん」と追い討ちをかける。 「……わかんない」少し時間を置いてからミミはそう言った。  ええい、まだるっこしい。  後ろからミミの細い体を抱きしめる。 「え? えっ?!」ミミは驚いて、再び体を強張らせた。 「嫌?」と訊く。 「嫌、じゃない……けど、なんか、緊張する」  俺も緊張してる。けど、明らかにミミの方が緊張してる。  そのおかげで少し気が楽になってるんだと思う。  ミミからは石鹸の匂いがした。  首筋の匂いを何回も大きく吸った。  その度に猫耳がピクピクと動いた。  尻尾もパタパタと揺らし、俺の腹を何回か擦った。 「俺、今、人生で一番幸せなんだけど、ミミはどう?」 「わかんない……けど……やっぱり、わかんない」  まだ好きという感情が理解できないらしい。 「俺に抱きしめられて、嬉しくない?」と質問を変えてみる。 「嬉しい……かも」 「それが好きって気持ちだよ」と教えてやる。 「なんか、すごく、落ち着かない……」 「好きかどうか手っ取り早く確認する方法があるんだけど」  俺の心臓もミミと同じくらいバクバクし始める。 「何?」とミミが言う。 「最初は痛いかもしれないけど、やってみる?」 「……うん」少し考えてからミミはそう言った。  長い夜が始まった── ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  白石拓海は異世界でモテたいF  ──パーーンッと銃声のような音で目が覚める。  驚いて上体を起こすと、クラッカーを持った茶髪でジャージ姿の少女がベッドの上で胡坐を掻いていた。 「え? ウズメさん?」 「童貞卒業おめっとさん! ヤったんやろ? あの娘と。ちょっと見直したわ」  横を見るとミミの姿は無かった。  この空間には俺とウズメとベッドだけだった。 「夢ですか?」と確認する。 「ん? どっちが? ここは白石の夢の中で、猫女と過ごした夜は夢じゃないで」  それを聞いて安心した。  眠った記憶が無いのに突然夢の中に来たもんだから、昨日の事も夢なのかと少し疑ってしまっていた。 「で? ヤったんやろ?」とウズメがしつこく訊いて来る。 「まぁ、ヤっちゃいましたよね。五回くらい。最高でした」と少し照れながら、誇らしげに報告した。 「きんもおぉぉぉ」と言いながらウズメは腹を抱えて笑った。  うぜぇ。 「で? ウズメさんは何しに来たんですか? 別に今は何も困ってないですけど」と言い放つ。 「そうなん? まぁ、暇だからちょい付き合うてや。何か聞きたい事とか無いんか?」とウズメは言った。 「ん〜……あ、避妊ってしなくても大丈夫なんですか?」 「きんもぉぉぉ」とウズメは再び笑った。 「俺にとっては笑い事じゃないんですよ。教えてください」  妊娠して動物の猫みたいに四つ子や五つ子を産んで貰っても困る。  堕胎の医療技術もあるのか怪しいし。 「猫女なら心配ないで、エルフ、ホビット、ドワーフ辺りは人間とのハーフが生まれる」 「それを聞いて安心しました。あ、ゴムってあの世界にもあるんですか?」  出来ればエルフやホビットも経験したかった。もちろん、人間も。 「ゴムは……白石が思っとるような物は無いなぁ、たぶん」とウズメが答える。 「無いのかぁ……」俺は露骨にがっかりした。 「子供を作れんくなる呪いでもかけたろか?」 「出来るんですか? 俺、呪い効かないんですけど」 「せやったな」と言ってウズメはいたずらっぽく笑った。  天然なのか、わざとなのか。たぶん、わざとだ。 「あ、呪いで思い出したんですけど、俺って呪いを解く事も出来るんですか?」と尋ねる。  最初は呪いを受けないだけかと思っていたが、昨夜のミミの件で考えを改めた。  ミミは明らかに呪いが解けていた。たぶん、俺が彼女の胸を直に触った時から。 「そうなん? それはサクヤに聞かないとウチは知らんわ」 「そうなんですか?」 「ん〜……ちょっと待っとって、試して来るわ」  そう言うとウズメはバヒュンと空に飛んで行った。  五分もしない内にウズメは戻って来た。 「おう、戻ったで。試しに切れない呪いがかかったナイフで色々切ってみたら、手の平だけスパッと切れたわ」 「俺を切ったんですか?!」 「お、おぅ。ちゃんと治したから安心せぇ。ついでに膝小僧も治しといたから」 「あ、それは有難うございます」 「かまへんかまへん。ま、そーゆーわけで、手の平で触った物だけ解呪出来るみたいやな」 「なるほど。女の子を触って解呪すれば、簡単に懐柔出来ると」  ようやく、俺があの世界でモテるヴィジョンが見えたぞ? 「うわ、おもんな」とウズメは呆れた。 「じゃあ、もう質問は無いんで、帰って貰えますか?」とウズメに言う。 「なんや、冷たいな。ま、ええわ。邪魔したな、ほな」  そう言い残し、ウズメは空へ帰って行った──  ──目が覚める。  外はもう明るくなっていていた。  ベッドの中には俺だけで、ミミの姿は無かった。  ベッドから出て、服を着て、一階に下りる。  店の方に行くと、カウンター席でミミが化粧をしていた。  それを見て、「あっ」と気付く。  化粧をしたミミは目がキリッとしていて、頬に二本、猫の髭のような紅を塗っていた。  そして何より、ミミが着ているチャイナドレスに見覚えがあった。  向こうもこちらに気付き、「お、おはよ」と照れながらミミは言った。 「お、おはよう……」俺もなんだか照れ臭かった。 「お風呂、今入ったばっかだから。良かったらどうぞ」と勧められる。 「お、おう、じゃあ」と言って風呂場に向かう。  お互いにどこか、ぎこちなかった。  着たばかりの服を脱いで、風呂に入る。  昨夜の事を思い出しながら湯船に浸かる。  擦り剥いた膝が綺麗に治っている事に気付いた。  逆上せる前に風呂を上がる。  バスタオルが見当たらなかったので、ミミを呼んで持って来て貰った。  体を拭いて、服を着て、店の方に戻った。 「おかえり」ミミがカウンター席で迎えてくれた。 「ただいま」と言って、ミミの向かいに座ってバスタオルで頭を拭いた。 「乾かしてあげる」  そう言うと、ミミは立ち上がり、俺の後ろに立って、俺の髪をくしゃくしゃと素手で弄った。  ミミの手は仄かに温かくて、昨日服を乾かしてた魔法かな? と思った。 「お昼ご飯、食べるよね?」  ミミはサッサッと俺の頭を撫でながら言った。 「うん、有難う」  俺がそう言うと、ミミは調理場に行った。  髪は完全に乾いていた。  あらかじめ作っていた物を温め直したのだろう。  すぐにミミは皿とコップを持って戻って来た。  緑のソースが掛かったパスタ、というより洋風焼きそばだろうか。  まぁ、例のごとく、うまかった。  焼きそばにソースじゃなく、野菜ベースのホワイトソースを掛けたような感じ。 「ねぇ、昨日の話、考え直してくれない?」  俺が洋風焼きそばに舌鼓を打っていると、ミミがそう言った。 「何の話?」と聞き返す。 「うちの酒場で働くって話。働かなくていいからさ」  え? 養ってくれるって事? 「一緒に住もうって事?」と遠回しに確認してみる。 「うん……行く所、無いんでしょ? ご飯も作るし、駄目?」 「ミミがいいなら……そうしようかな」と了承する。  食と住げっとおおおおおお!!! 「ホント? じゃあさ、コレで服とか歯ブラシとか、タオル買って来て。あたしは今からお店の準備で一緒には行けないけど」  そう言うとミミは一万円と書かれた金貨を俺に手渡した。  はい、衣ゲットー! 衣食住コンプリート。  順調すぎじゃない? 「ベッドは今度、大きいの買うから、しばらくは今ので我慢して?」 「おう、今度一緒に買いに行こうぜ」  そう言って、俺は皿に残った焼きそばを掻き込んだ。  コップの水を一気飲みして、口を拭く。 「じゃ、行ってくるわ」と金貨をポケットに入れて立ち上がる。 「いってらっしゃい」とミミは笑顔で言った。  カウンターの向こうに身を乗り出して、唇の端にキスをする。  不意を突かれたミミは顔が赤くなり、キョトンとしている。 「俺がいた所じゃ恋人同士は行ってきますのチューをしなきゃ駄目なの」と間違った知識を植え付ける。 「じゃ、行ってきます」と言って俺は酒場を後にした。